8年目血管外科医の日常

血管外科医の日常について書いています

血管外科という診療科について

今回は自分の所属している血管外科という診療科について書いてみます

 

血管外科とは

心臓から出た先の上行大動脈から弓部、下行、腹部大動脈までの大動脈領域と、手先、足先、腹腔内の末梢血管領域、そして静脈を専門とする診療科です

人工心肺を使った大動脈手術から、ステントグラフトなどの血管内治療、末梢の血管形成、バイパス術、透析用シャントの作成、静脈瘤手術など、手術手技が多岐にわたります

緊急手術が多い診療科です

予定手術としては、大動脈領域の予防的手術や、末梢血管領域の症状改善目的の手術まで、手術の目的も多彩です

一つ大きな特徴としては、メジャー診療科に分類されるのに、対応する内科(血管内科)がないという点です

例えば心臓外科なら循環器内科、消化器外科なら消化器内科、呼吸器外科なら呼吸器内科があり、術前の診断や術後のfollowを担ってくれます

しかし、血管外科領域には対応する内科がないため、術後も自分たちでfollowする必要があります

最近は循環器内科の先生方が術後のfollowをしてくれたり、合併症のないStanford B型解離を診て下さったりするので、負担は軽くなりつつあります

 

血管疾患について簡単なまとめ

僕らが扱う血管疾患は学生からすると非常に難しく感じることがあります

その理由は簡単で、病名と症状が対応していないことが多いからです

心臓の病期なら胸に症状が出ることがほとんどで、腸の病期ならお腹に症状が出ることがほとんどです

そういった、疾患と症状が対応していればイメージもつきやすいしとっつきやすいです

しかし、血管は全身にある臓器なので、症状の起こる部位は全身に渡り、症状も様々です

それが血管疾患が難しく感じてしまう原因です

しかし、難しく考えることはありません

血管はただの管なので、血管疾患の病態は膨らむ(瘤化)か破れる(破裂)か裂ける(解離)か詰まる(閉塞)しかありません

後はそれぞれの病態と疾患をリンクさせ、解剖学的に起こりうる症状をイメージすれば簡単に病気を理解することができます

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全部が全部公というわけではありませんが、ほとんどはこんなイメージです

破裂と解離は命に関わるので緊急手術の適応があります

閉塞は場合によっては緊急手術です

瘤は基本的には予防的手術(破裂予防)のため、待機的に治療をしていきます

難しいガイドラインや治療法、治療方針などは実際に血管外科として仕事をするようになってから勉強していけばいいのです

むしろ、実際い働いていれば、必要に迫られて勉強していきます

 

 血管外科のメリット、デメリット

これから診療科を選ぶという人たちに向けて、血管外科のメリット、デメリットを僕なりにまとめてみます

他科との違いだけでなく、心臓外科との違いも含みます

メリット

①資格が多い

これは心臓外科との大きな違いです

心臓外科の場合は人工心肺を使えようが使えなかろうが、特に資格はないので自己申告です

一方、血管外科ステントグラフトや静脈瘤など、数多くの資格があります

資格取得には症例経験や座学の受講など面倒な部分もありますが、その分資格さえ取ってしまえば周りとの差別化や自身のセルフブランディングができます

資格は裏切ることがないので、取れる資格は取っておいた方がいいと思います

②治療の選択肢が多い

血管外科は守備範囲が広い分選択肢も多いです

人工心肺を使った胸部の大血管手術、単純遮断の腹部大血管の手術、ステントグラフトによる血管内治療、末梢血管に対するバイパスや血管形成術、シャント手術、静脈瘤手術など、治療の選択肢は多岐にわたります

もちろんすべてを勉強して網羅してもいいのですが、どこかに特化して突き詰めていくこともできます

僕もどちらかというと血管内治療に軸足を置いて資格の取得や症例経験を積んでいます

他の血管外科医には、ステントグラフトはせずにオープンだけをする先生や、末梢血管のバイパスばかりやっている先生もいるので、血管外科に進んだ後にもまだまだ選択肢が残っているというのは非常に大きなメリットだと思います

③全身管理や急変対応ができるようになる

これは外科医としてはかなり大事なポイントです

血管は全身にある臓器なので、いろいろな病態に対して対処しなければ内ません

また、急変、急患の多い分野なので、おのずとそういった対応に慣れていきます

術後管理だけでもカテコラミンからボリューム管理までいろいろと学べます

④外科専門医が取りやすい

これは現在制度が変わったので一概には言えないかもしれませんが、血管外科にはシャントや静脈瘤といった、若手の医師にも執刀のチャンスのある症例が多くあります

また、ステントグラフトは心臓大血管領域、末梢血管領域のいずれでも申請できるので、外科専門医に必要な症例を集めるという意味ではかなり有利です

⑤専門を生かした開業という選択肢がある

これは血管外科の特徴的な一面です

心臓外科は開業して手術を続けるというのは難しいです

腹部外科も、開業して今まで通りの手術をするのは難しいです

そのため、必然的に内科メインでの開業になってしまいがちです

一方、血管外科の場合はシャントや静脈瘤、末梢血管の血管内治療など、開業後もそのまま続けられる手術が多くあります

そのため、これまでの経験を活かし、専門の手術を続けるために開業するという選択肢が選べるのは血管外科の大きなメリットだと思います

 

デメリット

①忙しい

メリット③の裏返しです

緊急手術、急変が多いため、忙しいときは非常に忙しいです

定期手術に緊急手術が重なると1週間ほぼ家に帰れないことも普通にあります

この辺は血管外科医の人数が少なく、当番制が敷けない病院が多いのが大きな問題点だと思います

②内科がない

これはこの記事の始めに書いた通り、血管内科がないので外来患者が非常に多くなってしまいます

我々は外科医なので、やはり外来は苦手分野です

それを多く抱えないといけないのはかなりのストレスになってしまいます

外来中に急患がきたりすれば、もう最悪ですね。。。

③手術のレパートリーが多い

これはメリット②の裏返しです

選択肢が多いということは、覚えないといけないことが多いということになってしまいます

実際に病変を見て置換するオープンの手術と、透視下に治療を進める血管内治療では求められるスキルも違います

血管内治療とオープンの手術は大きく異なりますがどちらも経験できる血管外科医の視点で適切な治療法を選ぶべきだと思います

もちろん、資格もたくさんとらないといけないので、そういった煩雑さもあります

 

まとめ

血管外科について思いつくことを書いてみました

まだまだ加筆していくかもしれません

メリットやデメリットを書きましたが、正直なところ血管外科医を選んで後悔をしたことはありません

ステントグラフトのサイジングや静脈瘤治療が非常に楽しいので、日々充実しています

ステントグラフトは術後の管理の負担も少ないので、女医さんでもとっつきやすい治療かと思います(被爆のリスクはありますが。。。)

外科志望だけどバリバリやっていく自信はそこまでないなという方は、一度血管外科の医局を覗いてみてはいかがでしょうか